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不妊治療費用は100万円以上かかる人が大半!助成制度の活用法

不妊治療には費用助成がある

不妊治療に取り組むにあたって心配なのは、「いつ妊娠・出産できるのか」ということはもちろん、「費用が高額になるのでは」ということですよね。「赤ちゃんを授かるまでに1,000万円かかった」という体験談もあり、費用への心配は募ります。

ここでは、不妊治療費に取り組むカップルの経済的負担を軽くする助成制度について紹介します。変更が予定されている助成回数や期間についてもご説明しますよ。

国の助成事業に上乗せして、さらなる支援事業を行っている自治体についても紹介しますから、お住いの地域の支援体制がどうなっているか、確認して下さいね。

さらに、高額療養費制度や医療費控除を使って負担を減らす方法もご紹介します。

不妊治療にかかる費用の平均は?体外受精1回が50万円

不妊治療には高額な費用がかかる

不妊治療といっても、治療方法は1つだけではありません。費用は安価なものもあれば高額なものもあります。これらの治療にかかる総額が不妊治療の費用になります。

  • (安価)医師がホルモン検査などから排卵日を推測し、指定した日に性行為を行うタイミング法
  • (比較的安価)精子を子宮内に直接注入し、卵子と精子が出会う確率を高める人工授精
  • (高額)体内から取り出した卵子と精子の受精を体外で行う体外受精
  • (高額)顕微鏡で見ながらピペットを使って卵子の中に直接精子を注入する顕微授精

不妊症に悩むカップルを支援するNPO団体Fineが2013年に行ったアンケートでは、1,993人中1,099人(55.1%)が、100万円以上の治療費がかかったと答えています。

もちろん、治療内容や治療期間の長さによって、かかる金額は違います。保険適用外となる体外受精などの治療法では、病院側が自由に金額を決めることができるので、通っている病院によっても差が生まれます。

参考として、次に主な不妊治療法の費用の相場について紹介します。

治療法 保険適用有無 費用
タイミング法 適用 1回数千円
人工授精 適用外 1回15,000円程度
体外受精 適用外 1回20~50万円
顕微授精 適用外 1回40~60万円
タイミング法や人工授精をしばらく試してみても良い結果が得られない場合は、医師から体外受精や顕微授精へのステップアップを勧められると思います。費用の面から人工授精を続ける人もいますが、体外受精や顕微授精のほうが妊娠の確率は高くなります。

体外受精・顕微授精したらお金が出る特定治療支援事業制度

不妊治療に取り組んでいる人の経済的な負担を軽くするために、厚生労働省は「不妊に悩む方への特定治療支援事業制度」を設けています。

自治体の指定を受けた医療機関で、助成対象になる治療を受けた場合に、助成金を支給するというものです。

ありがたい制度ではありますが、治療内容が体外受精と顕微授精に限定されていて、回数や所得によっても制限があります。

助成を受けるには、夫婦で所得が730万円未満などの条件あり

助成を受けるには夫婦合計の所得制限などの条件がある

この制度で助成を受けられるのは、戸籍上の夫婦に限られ、事実婚のカップルは助成対象外です。体外受精・顕微授精以外の治療法では妊娠の見込みがない、あるいは妊娠の可能性がかなり低いと診断された場合のみ、助成を受けることができます。

ただ、夫婦2人分の所得を合わせて730万円以上だと、助成を受けることができません。富山県(富山市含む)、燕市(新潟県)、高槻市(大阪府)など、所得制限がない自治体もありますが、ごく一部です。

所得制限のせいで助成を受けられない方は、医療費控除や高額療養費制度を使って、節税や医療費の軽減をするしかありません。医療費控除や高額療養費制度については、後ほどご説明します。

ただ、所得は収入のことではないので注意してくださいね。

所得の計算は、このように行います。

給与所得のみの会社員の場合の例です。

給料-給与所得控除額-80,000円※-各種の控除(障害者控除や医療費控除など)=所得額

※80,000円は社会保険料相当額で、一律に控除されます。

自営業者の場合はこのようになります。

総収入-必要経費-80,000円※-各種の控除(障害者控除や医療費控除など)=所得額

※80,000円は社会保険料相当額で、一律に控除されます。

助成対象は特定不妊治療!対象になる治療と給付金の額

助成の対象になる治療は、不妊治療のうち「特定不妊治療」と呼ばれる体外受精と顕微授精です。

不妊治療の中でも、体外受精と顕微授精は特に高額になるので助成しようというわけです。

助成限度額は1回の体外受精・顕微授精につき15万円です。ただし治療が途中で終了した場合や、以前に凍結した胚(受精卵)を移植する場合は半額の7.5万円になります。

<助成金が半額になる場合>

  • 以前に凍結した胚を解凍して、移植を実施した場合
  • 採卵したが、状態が良くなかったなどの理由で治療を中止した場合

平成28年からは、特定不妊治療への初回の助成金額が増額されました。初回の助成では30万円をもらうことができます。2回目以降は15万円で従来と変わりません。

助成を受けるためには、体外受精や顕微授精を、自治体に指定された医療機関で受ける必要があります。指定を受けている医療機関は、厚生労働省のWEBサイトにある指定医療機関一覧から確認できます。

平成28年4月から、助成回数と期間が変更になる

体外受精や顕微授精にかかる費用の全てが出るわけではない助成金。それでも、かなり大きな額が出ますね。

ただ、助成金が出る回数や期間には上限があります。

平成26年度から28年度にかけて制度が段階的に変更されるのでちょっとややこしいのですが、このようになっています。

<平成26年4月1日以降に初めて助成制度を利用する夫婦>

助成を受ける治療開始時の妻の年齢 年間助成回数 通算助成回数 通算助成期間
40歳未満 限度なし 6回まで 限度なし
40歳以上 年間2回(初年度3回) 10回まで 5年間(平成27年度まで)

<平成28年4月1日以降に初めて助成制度を利用する夫婦>

助成を受ける治療開始時の妻の年齢 年間助成回数 通算助成回数 通算助成期間
40歳未満 限度なし 6回まで 限度なし
40歳以上43歳未満 限度なし 3回まで 限度なし
43歳以上 対象外 対象外 対象外

「平成27年度以前に初めて助成を受け、助成を受ける際の治療開始時の妻の年齢が40歳以上43歳未満」の夫婦については、平成28年以降も助成を受けることはできますが、平成27年までに助成を受けた回数も、通算助成回数(上限3回)にカウントされます。

特定不妊治療の助成金申請方法!期限までに各自治体の窓口へ

手続きは都道府県庁や市役所で行う

特定治療支援事業制度で助成金を申請しようと思ったら、自治体の窓口で手続をします。政令指定都市や中核市に住んでいる人は市役所、それ以外の人は都道府県庁が受付窓口です。

期限については各自治体によって違っているので、必ず確認して下さい。例えばこんな自治体があります。

申請先の自治体 申請期限 備考
東京都 助成対象の治療が終了した日が属する年度末 1~3月に治療が終了して、書類が間に合わない場合は6/30まで延長可能。
この場合は助成回数は翌年度分としてカウント。
神奈川県 治療終了日から60日以内(最終受付は年度末) 書類が間に合わない場合は、仮受付の制度がある。
大阪市 治療終了日が属する年度の翌年度4月末
年度末は病院も役所も窓口が混み合います。年度末に助成金を申請した場合には、助成金の振り込みが遅くなることもありますから、できるだけ早めに書類の準備や提出をしましょう。

人工授精にも助成!自治体独自の助成制度に注目

ここまでは厚生労働省の制度についてご説明してきました。助成金は大きな額が出ますが、治療費の相場額には届かず、回数制限も厳しいですよね。

しかし、厚生労働省の制度に金額や回数を上乗せしている自治体や企業の健康保険組合もあります。

タイミング法や人工授精も助成対象にして、助成される治療の範囲を広げているところもあるのでご紹介しましょう。

都道府県独自の助成を行っているところも

独自の助成制度を実施している都道府県は多いですが、なかでも有名なのは、京都府や三重県内の市町です。

例えば京都府では、体外受精・顕微授精だけではなく、人工授精についても助成を行っています。

  • 保険が適用される不妊治療や人工授精(一般不妊治療という)に対しても、1年度10万円を上限として、自己負担額の1/2を助成
  • 一般不妊治療では、事実婚カップルも助成対象とする
  • 体外受精と顕微授精について、平成28年度の国の制度改正後も、通算10回まで助成する(京都市以外)

三重県では、県が行っている助成は厚生労働省が定めている内容のまま。しかし各市町では三重県からの財政支援を受けて、男性不妊の治療への金額加算といった支援を行っています。こちらは津市の例です。

  • 体外受精と顕微授精について、10万円を上限に助成金を上乗せ
  • 人工授精に対して、10万円を上限に、治療費用の2/3を助成
  • 不妊治療の一環である、男性の不妊治療について、5万円を上限に追加で助成

市町村独自の制度も見逃さないでチェック

市町村独自の制度があるか確認が必要

同じ都道府県内でも、市区町村単位で独自の制度を設けているところもあります。

驚いたことに、東京23区内でも、区が違えば制度が違います。3つの区を例に、東京都の事業に上乗せするかたちで行っている、区独自の体外受精・顕微授精への助成内容を比較してみましょう。

世田谷区 金額の上乗せ(1回につき10万円または5万円)
杉並区 金額の上乗せ(1回につき5万円または2.5万円)
港区 区独自の助成制度には所得制限なし(1年度30万円まで)

港区独自の助成制度には所得制限がないので、所得制限にひっかかってしまう夫婦にとっては魅力的です。

また、岩手県宮古市では、体外受精と顕微授精への1年度の上限額を100万円に設定していて、金額の多さが注目を集めています。都道府県の制度だけではなく、お住まいの市区町村の制度も、必ず確認して下さいね。

企業独自の健康保険組合で、給付を行っているところも

数は少ないのですが、企業独自の健康保険組合や共済会で、不妊治療を受けた従業員に対して助成をしてくれるところもあります。

例えばある大手自動車メーカーの健康保険組合では、不妊治療に対してこんな助成をしています。

  • 特定不妊治療(体外受精・顕微授精)に対して1回5万円まで(初回は10万円まで)
  •  

  • 男性不妊治療は1回5万円まで(初回は10万円まで)
  • 1夫婦につき通算10回まで。年度中の回数制限はない。

(2016年8月現在)

国の制度に比べて額は少ないのですが、もらえると助かりますし、会社に応援してもらってる気がして、気持ちが前向きになりますね。

他にも、健康保険とは別の任意加入の共済組合で、不妊治療への支援を行っている企業もあるようです。

市町村独自の制度がある場合、まずは都道府県に助成を申請してから、市区町村に別途申請することになります。期限もそれぞれ設けられていますから、確認しておいてくださいね。

高額療養費や医療費控除も活用して少しでも負担を減らそう

助成を受けた人も、所得制限のせいで受けられなかった人も、高額療養費や医療費控除で、さらに負担を軽減することができます。

高額療養費とは、保険範囲内の医療費が高額になり、定められた「自己負担額の上限」を超えた時に、払い過ぎた医療費が返ってくる仕組みです。保険の範囲内である検査やタイミング法の費用が高額になった場合は、ぜひ利用しましょう。

詳しくは、「払い過ぎた医療費は返ってくる!高額療養費の計算方法と使い方」をごらんください。

さらに不妊治療は医療費控除の対象になります。確定申告で医療費控除を申請をすれば、所得税が還付され、翌年の住民税も安くなります。

なお、特定治療支援事業制度で助成金を受け取った場合は、その額を医療費から差し引くことになります。医療費控除で戻ってくる還付金の計算方法や申請方法については、「還付金はいくら?手続きから計算方法まで、医療費控除の基礎知識」を参考にしてください。

タイミング法は健康保険適用の診療ですが、人工授精、体外受精、顕微授精は健康保険適用外となります。クリニックでは保険適用内と適用外の領収書や明細をわけて発行しますので、保険内、保険外の治療にそれぞれいくらかかったかの計算は簡単ですよ。

不妊治療の経済的負担を軽減する方法まとめ

特定不妊治療(体外受精、顕微授精)を受けた場合に助成を受けるには、治療内容、医療機関、所得などの条件を満たす必要があります。
 
原則助成金は特定不妊治療1回に対して15万円(平成28年から初回30万円)ですが、自治体によっては助成対象になる治療内容の範囲拡大、助成金の上乗せ、回数延長などを行っているので、住んでいる市町村や都道府県の制度を確認しましょう。
 
また助成金だけではなく医療費控除や高額療養費制度でも、負担を減らすことができますのでぜひ活用して下さい。
 
せっかく治療を受けるなら、治療そのものに集中して取り組みたいですよね。この記事を読んで、不妊治療の費用に関するあなたの不安が少しでも解消され、心の備えができたのなら本当に嬉しいです。