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国民皆保険でも自己負担大!低所得層が苦しむ韓国の医療保険事情

韓国の保険医療事情を紹介

韓国の医療保険制度は、日本の影響を受けて成立しました。じゃあ韓国の医療保険事情は日本とよく似ているのかというと、そうではありません。

韓国の制度は、制度成立のスピードを優先したために、「低負担・低福祉」になったと言われています。保険料の負担が低いかわりに、保障範囲が狭かったり、自己負担額が多かったりするのです。

自己負担が高いために、低所得者層の中には医療費が払えず病院にかかるのを諦めたり、入院中に病院から逃げ出す人もいるほどです。

人気がある民間医療保険も日本とは違っています。日本ではあまり見かけない、自己負担額をすべて補償してくれるタイプの保険がシェアを広げているんです。

日本と同じく、国民皆保険かつ民間医療保険も人気の韓国ですが、日本とはどんな違いがあるのかをご紹介します。

日本の影響を受けて成立!韓国の医療保険制度の歴史と特徴

似ているようで違う日本と韓国の医療保険制度

韓国で正式に公的医療保険が導入されたのは1977年です。日本を参考に制度設計をしましたが、その後は国の実情に合わせて日本とは違う方法で運用されています。

韓国の公的医療保険制度の成立の歴史と、日本とは違う特徴を紹介します。

韓国の公的医療保険制度の成立過程

韓国では1963年に公的保険制度の確立を目指して「医療保険法」という法律がつくられました。しかしこの時は国も国民も貧しく、公的保険の保険料を払う余力がない人が多い状況でした。そのため、まずは任意加入の制度としてスタートしました。

1977年からは強制加入の医療保険制度が開始。

まずは500人以上の従業員がいる事業所が強制加入の対象になりました。段階的に300人以上の事業所、100人以上の事業所というように強制加入の範囲を広げて、1988年には5人以上の事業所まで対象が広がりました。

自営業者に対しても、1988~1989年にかけて強制加入の対象にして、1989年に国民皆保険が完成しました。

制度開始から12年間で国民皆保険を達成したのは、世界的に見てもかなりの短期間です。ちなみに日本では34年間かかっています。

12年という短期間で国民皆保険制度をつくり上げるために、保険料を安く抑えて給付水準も低くする方法が取られたのが韓国の公的医療制度成立の特徴です。

日本と違う道を歩み始めた韓国の医療保険制度

韓国の医療保険制度は、日本の影響を受けていることもあって、はじめは日本と同じように組合方式を採用していました。大きく分けて以下の3つの保険制度です。

  • 自営業者などは地域医療保険(日本だと国民健康保険に相当)
  • 会社員は職場保険(日本だと健康保険組合に相当)
  • 公務員や学校職員は公・教公団(日本だと各共済組合に相当)

しかし組合間での財力の差などが問題になって、2000年にはこれら3つの制度を統合して「国民健康保険公団」が成立しました。

現在は、ひとつの団体ですべての公的医療保険を管理している状態です。

日本では今も組合方式で運営されていますが、韓国では別の制度を作って運用しはじめたんですね。

日本との違いは保険料にもあらわれている

韓国と日本では、保険料の負担も違っています。韓国のほうが保険料の負担率が低いのです。

日本だと、健康保険組合によって異なりますが、会社員の場合は報酬月額の4~5%くらいが保険料として徴収されています。

一方の韓国では、保険料は報酬月額の2.9%(2013年)で、日本よりかなり低くなっています。

韓国は保険料が安い分、公的医療保険の保障内容も日本より手薄です。さらに勤め人以外の人については、所得と財産(家や車も含む)に応じて保険料が決まるので、所得が少なくても家や車を持っていれば保険料が高くなり、不満も多いようですね。

自己負担額が高くて病院から夜逃げする人も

病院から逃げ出してしまう人もいる韓国

日本とは違う運用体制をとった韓国ですが、日本との違いは、他の部分でも目立っています。

それが医療費の自己負担率が高いことです。保険料負担が低いことと合わせて、「韓国の制度は低負担・低福祉(低給付)」と言われるゆえんです。

自己負担額は韓国33.8%、日本では16.3%

OECDの調査によると、日本だと全医療費に占める患者負担の割合は16.3%ですが、韓国だと33.8%にものぼります。

この韓国の自己負担比率は、OECD(経済協力開発機構。34カ国の先進国が加盟する機関)加盟国の中でも特に高い数字です。

日本や韓国と同じ社会保険方式を採用している国の、医療費に占める家計負担はこのようになっています

韓国 33.8%
日本 16.3%
ドイツ 12.4%
フランス 7.6%
オランダ 5.5%

病院にかかったときの自己負担額が大きいので、経済的に苦しい状況にある人の中には、病院に行くのを諦めたり、入院中の病院から逃げ出してしまう人もいます。

韓国の疾病管理本部の調査でも、病気にかかったのに病院に行かなかった人のうち21.7%が、診療費が高いことを理由に挙げています。

ではどうして自己負担比率が高くなっているのか、その理由を見て行きましょう。

自己負担率が6割になる病院がある

自己負担が高くなる理由として、病院によってはかなり高い自己負担を求められるということがあります。

韓国では、入院はどの病院でも自己負担2割ですが、外来(通院)は病院によって自己負担3~6割と差があります。

  • 上級総合病院:診察料が全額自己負担で、それ以外の費用が60%負担
  • 総合病院:45~50%負担
  • 病院:35~40%負担
  • 医院:30%負担
  • 薬局:30~50%負担

レベルの高い医療を行う上級総合病院や、規模の大きい病院にかかると、それだけ自己負担が増えるのです。

日本では病院の規模や受診時間帯によって多少診療費が変わることがありますが、治療内容が同じならどこで治療しても同一の自己負担率(1~3割)。これは大きな差です。

MRIやCTスキャンが公的医療保険制度の保障対象外

韓国ではMRIが保険適用されない

「大きな病院を選ばないで、規模の小さい近所の医院にかかればそんなに医療費はかからないんじゃないの?」と思う方もいるでしょう。

しかし小さな病院にかかっても、公的医療保険の対象範囲が日本に比べて狭いために自己負担額が大きくなってしまうことがあります。

病気の早期発見のためには欠かせないMRIやCTスキャンでの検査は日本なら公的保険の対象ですが、韓国では保険対象外。全額自己負担になります。徐々に保険対象が拡大されてはいるのですが、日本に比べるとまだ範囲が狭いようです。

混合診療が行われていることも自己負担額増の一因

また、日本で原則禁止されている混合診療※が行われていることも、自己負担を上げる一因です。混合診療をおこなった際に保険対象分が保障してもらえるというメリットはあるものの、保険対象外の治療が増えれば、結果的に自己負担が増えてしまいます。

生活保護を受けていて医療費が無料になる人でも、保険対象外の診療については自己負担をしないといけないので、医療費が払えないという例もあるようです。

混合診療とは
 
保険対象の診療と、保険対象外の診療を一緒に行うこと。日本では、入院時の個室料金や先進医療などでしか認められておらず、認められた範囲を超えて、保険対象と対象外の治療を併用すると、医療費は保険適用範囲の治療も含めて全額患者負担になります。
韓国では自己負担額が大きくなりがちな一方、重病患者に対する手厚いケアもあります。がんなどの重症患者や難病の患者については自己負担率が5~10%になるんです。重い病気にかかっている人にとっては助かりますね。

韓国では高齢者も若い時と同じ負担率を求められる

他にも韓国と日本の公的医療保険制度では、こどもや高齢者などの医療費の自己負担額が大きく違います。詳しく見ていきましょう。

高齢化が遅れていたため高齢者の医療費負担が高いまま

日本だと70~75歳は自己負担2割、75歳以上は自己負担1割と、高齢になるほど自己負担割合が下がりますよね。

しかし韓国では、高齢でも若い時と同じ自己負担を求められます。

年をとるほど病気になりやすかったりケガをしやすかったりして、病院にかかる機会も多くなりますから、若い時とおなじ自己負担というのは辛いものがあります。

韓国は日本よりも高齢化が遅れていたので、これまで高齢者の医療負担について重要視されてこなかったことが原因です。

6歳未満の子どもも自己負担額が発生

また、韓国では6歳未満の子どもについても、このように自己負担額が発生します。

区分 大人 6歳未満
入院 20% 10%
外来
(医院の場合)
30% 21%

日本では、中学生までは医療費無料としている自治体も多いですから、子育て世代にとっては大きな差があるといえます。日本の子ども医療費助成制度については「子育て世代必見!年齢だけじゃない子ども医療費助成の地域間格差」をご覧ください。

これから韓国でも急激に高齢化が進むことは確実なので、高齢者の医療費負担については改革が進んでいくと予想されています。

韓国で人気の民間医療保険は実費全額補償の実損型

韓国政府は公的保険での費用負担を拡大していく方針ですが、国が負担するお金をどこからもってくるのかなど、まだまだ不透明な部分も多くあります。

そんな中、韓国では、医療費の自己負担分を補填するために、医療保険に入る人がたくさんいます。

日本でも医療保険やがん保険が人気ですが、韓国も日本や台湾と並び、がん保険が売れる珍しい国として有名です。

がんなら医療費の負担は5%まで下がるのに、がん保険に入る人が多いというのも不思議な気がしますが、保険診療対象外の検査なども多いので、加入したいと思うのでしょうね。

ただ、今韓国で人気がある民間医療保険は、日本で主流のタイプとは違っているようです。

自己負担分を補償する実損型の医療保険が人気

韓国保険社会研究院の報告書では、韓国で何らかの民間医療保険に加入している人は2010年現在で77.5%だったというデータがあります。

一方、同じ年の日本での調査では、72.3%の人が病気での入院給付金が払われる保険(生命保険の特約含む)に入っていました。

ともに多くの人が医療保険に加入している韓国と日本ですが、韓国ではかかった医療費を全額補償してくれる実損型の医療保険が人気だという点が特徴的です。

韓国保険開発院の資料によると、韓国での実損タイプの医療保険の加入者は、2006年の377万人から2010年には1,756万人にまで増加しています。

韓国では公的医療保険でカバーできない範囲が大きく、医療費が高額になることが多いので、全額を補償してくれる保険が人気になっているんだと考えられますね。

実損型医療保険とは
 
患者さんが実際に負担した医療費を補償してくれる保険です。日本でも損害保険会社から販売されています。
韓国では実損型の医療保険が人気を集めているのですね。一方、日本で一般的な医療保険は、いくら医療費がかかったかに関わらず「この手術には10万円、この通院には1日1万円」などと給付金の額が一定のタイプです。

似ているようで似ていない日本と韓国の保険事情

韓国は日本の医療保険制度を参考に制度を作り上げてきました。
 
日本も韓国も国民皆保険制度が完成しており、しかも民間医療保険に入っている人が多いというところも同じです。
 
これだけ読むと、「制度や人気の民間医療保険の中身も似ているのかな?」と思ってしまいます。
 
しかし、実際には公的制度がカバーしてくれる範囲や医療費の額が違いますし、人気の民間医療保険のタイプも日本とは違います。
 
日本と違って、韓国では民間医療保険に入っていないと、費用が気になって病院に通いにくい現状だから、自己負担額を気にしなくていい民間医療保険が人気になっているんですね。