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オバマケアで保険料値上がり!医療費が高すぎるアメリカ

アメリカの医療保険事情

「アメリカの医療費が高い」というのは聞いたことがあるのではないでしょうか。日本では信じられませんが、ごく限られた人をのぞいて公的な医療保険に入っておらず、高すぎる医療費のせいで破産する人がいるのがアメリカです。

そんな状況を改善しようと、医療保険制度改革法(オバマケア)が2014年にスタートしました。しかしオバマケア以降、状況は良くなるどころか、逆に保険料が値上がりしています。なぜこんな状況になってしまったのでしょうか。

今回はオバマケア導入の背景にある、アメリカの医療費事情や保険事情や、オバマケア導入後のアメリカの医療保険の実情についてご紹介します。

アメリカ版国民皆保険制度を目指すオバマケア

アメリカでは、2014年1月から医療保険制度改革法(オバマケア)がスタートしました。

正式にはPatient Protection and Affortable Care Act(日本語訳:患者保護ならびに医療費負担適正化法)という法律なのですが、オバマ大統領が推進したのでオバマケアと呼ばれています。

野党である共和党はオバマケアに強硬に反対していたため、アメリカ議会はかなり混乱して、予算案が成立しませんでした。

その結果、アメリカが債務不履行(デフォルト)に陥るのではという憶測が飛んだり、自由の女神やスミソニアン博物館など、観光名所も含めた政府機関が一部閉鎖されたりして、日本でも大きく報道されましたよね。

こんな混乱を経て成立したオバマケアとは、どういう法律なのでしょうか。

オバマケアの内容とは?全国民を医療保険に加入させる法律

医療保険制度改革法(オバマケア)は、アメリカ国民(永住権を持っている外国人、労働ビザがある外国人も含む)全員が、医療保険に加入することを目指して作られたものです。

実は、アメリカには日本のような国民皆保険制度がありません。

日本には国民皆保険制度があり、国民は原則として全員が国民健康保険や健康保険組合などの公的保険に入っています。病院で、医療費の2割とか3割のみの支払いで済んでいるのは、私たちが公的保険に入っているからです。

この公的な医療保険制度が充実しているため、「民間の医療保険には入る必要がない」なんていう主張も受け入れられているんですよね。

一方のアメリカでは、公的医療保険は、低所得者、低障害者、高齢者向けのみです。そのため、公的保険に入っていない人が圧倒的に多数です。この大多数の人たちは、そのままだと無保険状態になってしまいますから、職場を通じて、あるいは自分で、民間の医療保険を契約しないといけません。

しかし、保険料が払えないなどの理由から、2011年時点では、15%もの人が完全に無保険の状態で生活していたのです。

この状況を改善するために成立したのがオバマケア。そのオバマケアの概要はこのようなものです。

  • アメリカ国民(永住権を持っている外国人、労働ビザがある外国人も含む)に、一定の基準を満たした医療保険への加入を義務づけ、加入しない場合は罰金を課す
  • 低所得者向け公的保険の加入対象者を拡大する
  • 政府が定めた貧困レベル以下の人たちに、保険料の税控除を行う
  • 従業員50人以上の企業に、職場を通じた医療保険加入を促す
  • 医療保険は、政府や州政府が設ける医療保険取引所で購入できるようにする

アメリカで国民皆保険制度への反対が根強い理由

国民皆保険制度にどっぷり浸かっている日本人の視点からアメリカの医療保険事情を見てみると、オバマケアは何としても必要な法律に思えます。それなのに、どうして強硬に反対する勢力があったのでしょうか。

アメリカでは第2次世界大戦ごろから、福利厚生として従業員に医療保険をかける企業が多くあらわれ、現在でも多くの人が職場を通じて医療保険に加入しています。職場で医療保険に入ることが一般的な社会が、国民皆保険制度への反対を生み出しています。

国民皆保険制度になれば、会社を通じて入っている保険よりも保障の質は落ちます。さらに失業者などの低所得者分も、働いている人たちがより高い保険料を支払って助けてあげる必要がでてきます。

職場を通じて保険に入っている人たちにとってみれば、「保険の質が落ちて負担が増える」という医療保険制度の改悪であると言えます。

オバマケア以前にも、何度か国民皆保険制度の導入が検討されたことがあったのですが、このような反対の声が根強く、実現には至りませんでした。

日本では子どもや高齢者などを除いて原則自己負担は3割。残りは誰が払っているか意識したことはありますか?もちろん病院がディスカウントしてくれているわけでありません。残りの7割は、国民健康保険(自治体)や健康保険組合が払っています。

アメリカの民間医療保険の仕組みは複雑で保険料が高い

保険が複雑で高額

多くの人が職場を通じて保険に入っている一方で、15%もの人が無保険のアメリカ。先進国としてはずば抜けて低い数字です。

無保険だと医療費が全額自己負担になってしまうにも関わらず、医療保険に入らない人が多いのはなぜでしょうか。その理由としてはこのようなことが挙げられます。

  • 保険料が高く、多くの人が保険料を払えない
  • 保険に入っていても、治療を受ける病院によっては保障を受けらない

このような問題を抱える、アメリカの民間の医療保険の概要を見て行きましょう。

月15万円!アメリカの民間医療保険の保険料はあまりに高すぎる

アメリカ在住の日本人の体験談でも、保険料が高くて驚いたという話題はよく出てきます。例えばこんな例があります。

  • 家族4人で月9万円かかっている
  • 救急医療や緊急入院だけをカバーする格安プランでも、月額15万円かかった

格安のプランで15万円とは驚きですよね。もちろん、ある規模以上の企業に努めていれば、会社が保険料の大部分を負担してくれるので、自己負担を抑えて充実した保障を受けられます。

しかし、自営業や小規模な企業で働いている人達が個人で契約するとなると、保険料を全額自分で払うので、条件が悪い保険でも大きな負担になります。

保険のシステムが複雑!保険金が下りる病院が限定されている

また、アメリカでは契約する保険のタイプによって、「保障が受けられる病院」が変わります。

日本の民間医療保険だと、どこの病院で治療を受けても所定の入院や手術をすれば保険金がおりますが、アメリカではそうではありません。

例えば、主な保険の種類であるHMO(Health Maintenance Organization)だと、どんな病気やケガでも、まずは主治医を受診する必要があります。主治医は、症状に応じて、保険が使える他の医師(専門医)を紹介してくれます。

そのHMOのネットワークに加入している病院(医師)だと安く受診できますが、ネットワーク外の医師だと保険が適用されません。HMOの保険に入っていたのに、ネットワーク外の病院に救急搬送されたせいで、高額な医療費を払うことになった人もいます。

PPO(Preferred Provider Organization)タイプの保険だと、HMOに比べて多くの病院で保険適用されます。ただし保険適用される範囲が広い分、保険金の額が少なく、自己負担額がHMOに比べて高くなります。ネットワーク外のお医者さんにかかると、さらに自己負担額※の割合は高くなります。

自己負担額は英語でdeductible(控除)といい、PPOだとネットワーク内の医師にかかったときには1~2割程度の自己負担、ネットワーク外だと3割程度を負担するのが一般的です。

アメリカでは、救急車で緊急搬送されるときに救急隊員が患者が契約している保険の種類を確認するんですよ。日本では考えられませんね。

病気になって破産!アメリカの医療費が高騰する理由

アメリカの医療保険は保険料が高いとご紹介しました。

保険料が高いのは、医療費自体が高いからです。

アメリカの医療技術は世界で最も進んでいると言われていて、すごい早さで進歩しています。ただし新しい技術にはそれだけ研究費などのコストもかかってしまいます。

でも、日本でもレベルの高い医療が行われているはずなのに、医療費は高騰していませんよね。その理由は、日本では医療費の基準(診療報酬)の決定に国が介入しており、医療費が一定に抑えられているためです。

しかしアメリカでは医療費の基準を市場原理に委ねているため、医療費がどんどん高くなります。

病院スタッフの人件費が高いことや、医療訴訟が多発するために損害賠償関係の費用が多額になることも、医療費が高くなる原因です。すると保険会社は、高額になる医療費の支払いに備えるために、保険料を上げざるを得ません。

では、アメリカの医療費ってどれくらい高いのでしょうか。実際の数字を見てみましょう。

盲腸+腹膜炎で870万!ニューヨークの医療費は高すぎる

特に医療費が高いのはニューヨーク

アメリカで特に医療費が高いと言われるニューヨーク。その中でも医療費が高い地区と言われているのが、観光地としても有名なマンハッタンです。外務省が発表している情報を元に、医療費の実例を表にしてみました。

治療内容 医療費
急性虫垂炎(盲腸)手術後に腹膜炎を併発(入院8日) 7万ドル
(約875万円)
腕を骨折して手術(1日入院) 1.5万ドル
(約187万円)
貧血で治療(2日入院) 2万ドル
(約250万円)

※レート:1ドル=125円で計算

初診料は一般の病院で150~300ドル(18,750~37,500円程度)、専門医なら200~500ドル(25,000~62,500円程度)かかると紹介されています。日本では、虫垂炎の治療にかかるのは30~40万円程度ですから、すごい差です。

こうやって比べてみると、アメリカの医療費の高さが実感できますね。

保険に入っていたのに医療費が払えない!破産理由の6割が医療費

あまりに高すぎる医療費のために、医療費が払えず自己破産する人も続出しています。アメリカで自己破産した人の6割以上が、原因は医療費だとしています。しかも、そのうちの8割は、民間の医療保険に加入していた人たちだというから驚きです。

  • 保険に入っていたが、医療費が保障されないネットワーク外の病院に運ばれてしまった
  • 加入していた保険では医療費の保障額が十分ではなく、高額な自己負担を求められた

そんな人たちは、破産するしかありません。

日本では仮に1ヶ月に200万円(10割)の医療費がかかっても、窓口での自己負担は60万円(3割)。しかも高額療養費制度を使えば、60万円のうち約50万円が後から返ってきます(年収約370~770万円の場合)。アメリカとの差、すごいですね。

医療費負担は高いまま!オバマケアでも問題は解決されていない

医療費が高すぎて問題が解決されない

ここまで見てきたアメリカの医療と保険の実情は、かなり危機的に思えます。そのような状態は、オバマケアによって改善されたのでしょうか。

実は改善されておらず、より悪化していると言われています。なぜでしょうか。その理由を見て行きましょう。

オバマケアの問題点!規制のせいで保険料が上がった

オバマケアによって、保険料が上がったというのが理由の一つです。保険料が上がった原因は、オバマケアで保険会社への規制が強化され、以下のような条件が設けられたことです。

  • 保険に含むべき保障内容10項目が決められた
  • 健康状態によって加入を拒否することができなくなった

保険会社が、持病があって医療費支払いリスクが高い人も受け入れ、しかも保障内容を充実させないといけないのなら、会社が破綻しないようにリスクに備えて保険料を上げるのは当然です。

オバマケア推進派は、保険会社の間で競争原理が働いて、保険料が下がるとしていましたが、実際にはそうなっていません。

オバマケアの基準をクリアした保険は、政府あるいは州政府が設けているWEBサイト(マーケットプレイスとかエクスチェンジと呼ばれています)で購入できますが、それぞれの州で、保険購入者がひとつの保険会社に集中する寡占状態になっています。

これだと競争原理は働かず、保険料は下がりようがありません。

オバマケアがあっても医療費が高すぎて受診できない

何より問題なのは、医療費そのものが高いままだということです。例えば、ネットワーク内の医師なら自己負担が2割になる保険に入ったとしましょう。

盲腸と腹膜炎を併発し、マンハッタンにあるネットワーク内の病院で870万円の医療費がかかったとします。自己負担が2割だったら、174万円を自己負担することになりますね。

医療費が下がらないかぎり、いくらオバマケアで国民皆保険を実現しても、「焼け石に水」程度にしかならないのではないでしょうか。

破産しないまでも、盲腸と腹膜炎で174万円なんて高額なことに変わりはありません。保険に入っていても病院に行くのをためらってしまいますよね。ためらうどころか、病院に行くことを諦める人も多々いるだろうと容易に想像できます。

医療費が高すぎるのが問題点!オバマケアが機能しないアメリカ

アメリカは先進国で唯一、医療費の基準に国が介入せず、市場原理に委ねています。そうなると、研究開発にかけてきたコストを回収しようと、医療費が上がっていくのは当然です。結果、医療費が高すぎて、保険に入っていても自己負担が高額になってしまいます。
 
世界一の医療技術を持ちながら、国民が十分にその恩恵を受けられないアメリカの医療や保険の現状は、とてもいびつに思えます。
 
日本の公的保険も医療費の増大、それにともなう保険料の値上げなど問題を抱えています。
 
「また保険料が上がった」とか「入院時の食事代が値上げされる」など、不満ばかりが強調されがちですが、民間医療保険に頼るアメリカ版国民皆保険制度(オバマケア)と比較してみると、とても優れたありがたい制度だということがわかります。