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傷病手当金の申請を徹底解説!よくわかる申請方法と注意点

会社員だけの制度である傷病手当金

もしも病気やケガで会社を休むことになったら、生活費が心配になりますよね。業務上で病気になったりケガをしたら労災がおりますが、業務以外だとどうなるのでしょうか。

実は、業務以外での病気やケガでも、会社員なら健康保険組合から「傷病手当金」というお金をもらうことができるんです。療養中の生活費を保障するため、給料の約2/3の額が、最長で1年6カ月間も支給されるんですよ。

これは、国民健康保険に加入している自営業の人にはない、会社員のための制度です。だけど待っていれば自動でもらえるわけではなくて、自分で申請書を取り寄せて申請手続きをする必要があります。

この記事では、「傷病手当金とはそもそも何か?自分が支給条件を満たしているのか?」という基礎知識から、会社員が知っておくべき申請方法と傷病手当金の支給日、傷病手当金が出なくなったり減らされてしまうケースや退職後の受給についての注意点まで、詳しくご説明します。

傷病手当金とは?病気やケガで仕事を休むときに支給されるお金

傷病手当金は、業務外の病気やケガで仕事を長期的に休むことになったときに支給されるお金です。

長期で仕事ができなくて収入が減ってしまうと、生活が苦しくなりますよね。それを防ぐため、生活の保障として、給料の約2/3の額が最長で1年6カ月間支給されます。

傷病手当金は健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合)から支給されるため、国民健康保険に加入している人は対象になりません。つまり、会社員や公務員だけが利用できる制度です。

業務上や通勤途中にケガをしたり、仕事が原因で病気になった場合は労災なので、傷病手当金の対象にはなりません。

例えば「自転車でケガをした」場合、家からスーパーに買物に行くとき自転車に乗っていてケガをしたなら傷病手当金の対象ですが、通勤中だったなら労災です。

    <傷病手当金とは>

  • 業務外の病気やケガで仕事を長期的に休むことになったときに支給される
  • 給料の約2/3の額が最長で1年6カ月間支給
  • 会社員や公務員だけが利用できる
例えばがんになった場合も、職場環境が原因でがんになった場合は労災(アスベストによる中皮腫など)で、仕事に関係ない場合は傷病手当金の対象です。

傷病手当金の支給条件は4つ!全てを満たす必要がある

傷病手当金は、以下の4つの条件をすべて満たしたときに支給されます。

  • 仕事以外での病気やケガのために入院、または自宅療養している
  • 今まで従事していた業務ができない
  • 最初に3日間連続で休み、4日目以降も就労ができない
  • 休業した期間に、給与の支払いがない

それぞれの条件について、詳しくみていきましょう。

条件1:業務外での病気やケガのために療養している

ケガで療養中に傷病手当金が給付される

傷病手当金は、仕事以外での病気やケガで療養している場合に支給されます。

仕事をする上(通勤中含む)で病気になったり、ケガをした場合は、労災保険の範囲内になりますので、傷病手当金は支給されません。美容整形など、病気やケガと認められないものも、支給対象外です。

「療養」には入院も自宅療養も含みますので、入院していなくても傷病手当金は受け取れます。

また、保険外の診療(自費診療)でも、仕事につくことができないという医師の証明があれば支給対象です。

条件2:今までやっていた仕事をすることができない

病気やケガのために、それまでやっていた仕事ができない場合に、傷病手当金が支給されます。これを「労務不能」の状態といいます。

「労務不能」の状態になっているかどうかは、自己判断・自己申告で決めるものではありません。それまで従事していた職種や業務不可を考慮し、医師の意見をもとに判断されます。

条件3:4日以上仕事に就けない

病気やケガで休み始めた最初の3日間は「待機期間」といわれ、傷病手当金は支給されません。

連続して3日間休んだら待機期間が成立(待機完成)し、4日目から、傷病手当金が支給されます。

連続して3日休むというのがポイントで、「1日休む→1日出勤→2日休む→1日出勤」だと待機期間は成立しません。待機期間の3日間は、有給休暇、公休(土日祝などのもともとの休日)、欠勤など、どの休み方でも休みとしてカウントされます。

業務時間中に労災にあてはまらない病気やケガが発生して早退することになった場合、早退した日が待期期間の初日になります。

待期3日間の考え方

条件4:休業した期間、給与の支払いがない

傷病手当金は「療養中で給与がもらえない」期間の生活費を保障するものです。ですから有給休暇を使うなどして給与が出ている場合には支給されません。

ただし、休業中の給与の額が傷病手当金の額よりも少ない場合には、差額をもらうことができます。

健康保険に加入していても、退職後の任意継続被保険者※である期間に発生した病気やケガで療養している場合は、傷病手当金の支給対象にはなりません。

任意継続被保険者制度とは
 
一定条件を満たせば、退職後も最長2年間、引き続いて健康保険に加入できる制度のこと。
傷病手当金をもらうには4つの条件があり、すべてを満たす必要があります。

傷病手当金の金額は給料の約2/3!計算方法を紹介

傷病手当金の額

傷病手当金は、給料の約2/3の額が支給されます。でも毎月の給料って、残業の有無などによって変動しますよね。

そのため、傷病手当金の計算には「標準報酬月額」という、平均の給与金額をいくつかの等級に分けたものを使います。具体的な金額を見ていきましょう。

支給額は標準報酬日額の2/3!増額してくれる健保組合もあり

傷病手当金は、1日につき「標準報酬日額」の2/3の額がもらえます。

「標準報酬日額」は、「標準報酬月額」を1/30にしたものです。

この表では、平均の給与額と、それに対応する標準報酬月額(日額)、傷病手当金をまとめています。

傷病手当金額計算のもとになる標準報酬月額

健康保険組合によっては、追加でお金が支給される独自の制度を設けていることがあります。自分が加入している健康保険独自の制度がないか、調べておきましょう。

標準報酬月額(日額)の計算方法

傷病手当金などを計算するときに基準になるのは標準報酬月額です。でも、自分の標準報酬月額がいくらなのか知らない方も多いでしょう。実は自分で簡単に計算できるんですよ。

4月から6月までの給料の平均額を出してみて、その金額が、さきほどの表のどこにあてはまるかを見れば、標準報酬月額・日額がわかります。これで、いくら傷病手当金がもらえるのかも確認できますね。

なお、ここでいう給料とはこれら3つで、年3回以下のボーナスや大入り袋のように臨時に受け取るものは含みません。

  • 基本給
  • 通勤手当、残業手当、住宅手当などの各手当
  • 年4回以上支給される賞与(ボーナス)
「給料の2/3って少ないなあ」と思うかもしれませんが、働けない間にもこれだけ出るのはありがたいですよね。しかも傷病手当金は非課税なので、支給された額から税金が引かれることもありません。

傷病手当金の支給期間は?最長1年6カ月間生活費が保障される

もらえる金額がわかったら、次は、もらえる期間が気になりますね。

傷病手当金は、病気やケガのために3日間連続して会社を休んだ後の4日目から支給され、最大で1年6カ月間支給されます。

「1年6カ月分」ではなくて、「1年6カ月間」であることに注意が必要です。

症状が軽くなったので一度復職して、傷病手当金の支給対象から外れた後、同じ病気のために再度休職した場合でも、最初の支給開始日から1年6カ月までの支給となります。

最初の支給開始日から1年6カ月までの支給

ただし、病気やケガが治ったと診断されて復職し、長期間なんの支障もなく勤務していたのに、また同じ病気になった場合は、新たに傷病手当金の支給が認められることもあります。

支給期間についても、支給金額と同様に独自の制度をもっていて、支給期間を延長してくれる健康保険組合がありますから、調べておくといいでしょう。

傷病手当金の申請方法の流れ!協会けんぽを例に徹底解説

傷病手当金の申請書類には医師記入欄あり

支給条件を満たしており、実際に傷病手当金を受け取りたいときにはどうしたらいいのでしょうか。健康保険の制度ですから、会社に任せておけば自動的に支給してくれそうな気がしますが、そうではありません。自分で申請をする必要があります。

病気が発生し、療養が必要になるとわかったら、こんな順序で申請の準備をします。

(1)会社に報告して、申請書を用意
(2)会社と医師に、申請書への記入を依頼
(3)協会けんぽや健康保険組合に提出

中小企業が加盟する全国健康保険協会(協会けんぽ)の手続き方法を例に、詳しく見ていきましょう。会社独自の健康保険組合に加入している場合は、申請書や手続方法が健康保険組合によって異なりますが、おおまかな流れは協会けんぽとそれほど変わりません。

病気やケガで療養が必要になったらまず会社に報告

病気やケガになり、療養期間が長くなりそうだとわかったら、まずは療養期間中に有給休暇を使うのか(傷病手当金はもらえない)、欠勤して傷病手当金を受給するのかを会社(事業主)の担当者と相談してください。

制度に詳しい担当者なら、申請書の準備をサポートしてくれるかもしれません。

反対に、まだ制度を利用したことがない会社であれば、事前相談なしにいきなり「傷病手当金の書類を書いてください」と書類を持って行っても、スムーズに手続きが進まない可能性がありますよね。やはり事前に相談しておいて、担当者に心づもりをしてもらったほうがいいでしょう。

申請したい期間の終了後に企業主と医師に申請書類への記入を依頼

傷病手当金の申請書は、協会けんぽのWEBサイトからダウンロードするか、協会けんぽの窓口でもらうことができます。年金事務所や商工会議所に置いていることもあります。

個人の状況によって、申請書以外に必要になる書類がありますから、必要書類がわからない場合は協会けんぽに問い合わせてください。申請書以外に必要になる書類の例です。

  • 障害厚生年金を受けている場合、年金額がわかる証明書の写しが必要
  • 交通事故によるケガの場合、第三者の行為による傷病届が必要 など

申請書を入手したら、まずは自分で記入できる欄を埋めます。全国健康保険協会(協会けんぽ)のWEBサイトには記入例も載っていますので、参考にしてください。

申請書の中には、お医者さんと会社(事業主)に記入してもらう欄がありますので、傷病手当金を申請したい期間の最終日(または給与の締切日)が終わってから、医師、事業主の順で記入をお願いしましょう。

また、初回申請時には出勤簿(タイムカード)や賃金台帳のコピーを添付することが必要です。これらは会社で用意できる書類ですので、会社の担当者に添付をお願いしてください。

いつからいつまでの出勤簿が必要なのかは、こちらを参考にしてください。

添付書類について

書類提出方法は郵送か持参!会社から郵送してくれるパターンもある

書類が完成したら、郵送か持参で全国健康保険協会(協会けんぽ)に書類を提出します。全国健康保険協会の都道府県支部は、各都道府県にひとつずつあります。

近ければ持っていくことができますが、遠かったり入院中だったりする場合には、郵送が便利です。

会社によっては、事業主証明欄を記入したあとに担当者から郵送提出してくれる場合もありますので、聞いてみましょう。

申請したい期間が終わる前に申請書を記入してもらうと、見込みでの記入になってしまい、「○月○日~○月○日まで、確かに労務不能の状態だった」という証明ができないので、傷病手当金は支給してもらえません。傷病手当金は、「○月○日~○月○日まで労務不能だった」という事実に基づいて、事後に支給されるものだからです。

申請期間と支給日は?書類提出から支給開始まで1ヶ月かかる

傷病手当金は事後申請で、2年間も遡ることができます。

申請書をコピーすれば、1回で数カ月分の傷病手当金も申請できるようになっています。

しかし、早く生活費を確保したいですから、何ヶ月分も溜めてから申請するのではなく、給与の締切日ごと(1カ月ごと)に申請するのが一般的です。申請から1ヶ月程度で、指定した銀行口座に傷病手当金が振り込まれます。

傷病手当金支給日は申請の1ヶ月後!書類は万全にしておこう

傷病手当金を申請してから、傷病手当金の支給開始までには1カ月程度かかります。

この期間に、申請内容の審査が行われ、支給されるかどうか決まります。

協会けんぽでは、申請受付から10営業日を支給日とすることを目標にしていますが、書類に不備があると支給日(振込日)が遅くなってしまいます。

また、会社から協会けんぽに書類を提出してくれる場合、会社内での書類準備や事務処理に時間がかかって提出が遅くなることもあります。

傷病手当金を申請する本人はもう書類を提出しているのに、書類が会社内でとまっていて協会けんぽに届いていないため、実際に支給が開始されるまでに時間がかかります。

支給日を早くしたいなら、自分が早めに、そして正確に書類を用意するのはもちろんですが、会社の担当者にも早めに連絡しておかないといけませんね。

申請期限は2年!2年前まで傷病手当金の申請は遡れる

傷病手当金の時効は2年なので、2年前まで遡って申請することができます。1日単位で時効が発生するため、2年前までに少しでも傷病手当金をもらえる療養期間があるのなら、今からでも申請しましょう。

申請書をコピーすれば、1回で数カ月分の傷病手当金も申請できるので、期間分全てを一度に請求することも可能です。傷病手当金には、1回に1ヶ月ずつ申請してくださいという決まりはありません。

まとめて申請してもいいのですが、一度に申請する期間が長くなると医師の証明欄に記載される「就労できなかった旨の具体的な説明」が書きにくくなるため、傷病手当金が下りない可能性もあります。生活費もこまめに入ってくるほうが助かりますから、今現在療養中の方は、後で一度に申請するのではなく、給与の締め日ごと(1ヶ月ごと)に申請することをおすすめします。

注意!傷病手当金の支給が停止されたり金額が調整されるケース

給与や、傷病手当金以外の公的な給付金を受ける場合には、傷病手当金が支給されなかったり、他の給付金との差額のみが支給されたりします。

他の給付で生活費が確保できるとみなされ、重複での受給ができないんですね。給与をもらう場合には傷病手当金が出ないというのは支給条件にもあったとおりでわかりやすいですが、他にはどういった給付金との重複ができないのか、みていきましょう。

出産手当金や労災保険の休業補償給付を受けるとき

女性の方が出産手当金と傷病手当金をどちらも受給できる状態だと、出産手当金の支給が優先されますので、重複して受けることはできません。

また、業務上の病気やケガがあって、労災保険からの休業補償給付を受けている間は、業務外での病気やケガが別にあっても、傷病手当金は支給されません。1日にもらえる休業補償給付の額が、傷病手当金よりも少ない場合は差額をもらうことができます。

老齢年金・障害年金・障害手当金を受けるとき

退職後に老齢年金(老齢厚生年金、退職共済年金、老齢基礎年金)を受ける場合には、傷病手当金が支給されません。ただし、年金額の1/360が傷病手当金の額より低いときは、差額を受給できます。

障害年金(障害厚生年金、障害基礎年金)や障害手当金を受けることになった場合も、傷病手当金はもらえません。老齢年金と同様に、傷病手当金の額のほうが大きければ、差額が支給されます。

傷病手当金は、ほかの給付金や年金と重複して2重取りはできないと覚えておきましょう。

退職後でも傷病手当金がもらえる!失業給付を受けないことが条件

病気やケガのために退職せざるを得なくなる方もいるでしょう。

会社を退職することになった場合でも、この条件を満たせば、在職中にもらっていた傷病手当金をもらい続けることができます。

  • 退職日に労務不能状態で出勤しておらず、傷病手当金をもらっているか、支給条件を満たしている
  • すでに傷病手当金をもらっている場合は、支給開始から1年6カ月以内である
  • 健康保険の加入期間(退職後に任意加入被保険者だった期間を除く)が、退職日までに継続して1年以上ある
  • 退職後も労務不能状態が続いており、失業給付を受けていない

傷病手当金受給中で保険加入期間が1年以上なら退職後も受給可

すでに傷病手当金を受給していて、健康保険の加入期間(1年)を満たしており、退職日も会社を休んでいれば、退職後も引き続き傷病手当金を受給できます。退職当日にあいさつ回りなどで出勤してしまうと、退職後の傷病手当金がもらえなくなりますので注意してください。

失業給付金を受給すると傷病手当金は支給されない

退職後に失業給付金を受ける場合には、傷病手当金は支給されません。

失業給付金は「失業しているが、再就職の意思と能力がある人」に支給されるものですから、働けない「労務不能状態の人」に支給される傷病手当金が同時に支給されるのは、おかしいですよね。

退職後に一旦就労可能になると、もう傷病手当金は支給されない

在職中と退職後では、支給される期間についても少し違いがあります。

在職中は、復職を経て再度休職した場合、傷病手当金が支給されました。しかし退職してしまうと、一旦仕事に就くことができる状態になった後は、再び労務不能状態になっても傷病手当金は支給されないという違いがあります。

退職後に一旦就労可能になると、もう傷病手当金は支給されない

すでに傷病手当金をもらっていて退職した場合はわかりやすいですが、「支給条件を満たしている(けれど傷病手当金を受給していない)」がちょっとわかりにくいですね。これには、「療養中も会社から給料が出ていた」「有給休暇を使って休んでいた」などの理由で、条件を満たしていたけれど傷病手当金を受給していなかった場合があてはまります。

生活費保障の傷病手当金!支給日を早くしたいなら迅速に手続きを

傷病手当金は社会保険に加入している会社員の特権。給料の約2/3が1年6カ月もの期間支給されます。条件を満たせば、退職後ももらうことができますよ。
 
ただし、他の公的な給付金を受ける場合は、支給ストップか金額が調整されてしまいます。また、会社が手続きを自動でやってくれるわけではなく、自分で書類を準備する必要があります。
 
傷病手当金は事後申請ですし、2年間さかのぼって申請することもできます。病気・ケガで長期休業しそうだったら、落ち着いてまずは会社に相談してください。
 
傷病手当金は、働けない期間の生活を助けてくれる、会社員の特権です。退職後でも受給することができますから、病気やケガのせいで退職を余儀なくされた場合でも頼ることができます。病気やケガによる療養のために働けなくなったら、必ず利用しましょう。