インシデント対策とレポートの書き方!看護師のヒヤリハット事例
「患者に渡す内服液を間違えたけど、服用前に気づけた・・・」などのヒヤリハット体験は、よく耳にしますよね。気をつけているつもりでも、なぜかインシデントが起きてしまうと悩んでいる看護師も多いのではないでしょうか。
インシデントを起こさないに越したことはありませんが、インシデントは環境上の理由で必然的に起きてしまうこともあります。そのような場合は原因分析をしっかり行って、インシデントの再発と医療事故の発生を防ぎましょう。
インシデント発生時の対応がしっかりできれば再発を防ぐことができます。しかし原因分析をしっかり行っていないと、今後同じようなインシデントを起こして医療事故につながる恐れもあります。
ここでは実際に起こったインシデント事例(ヒヤリハット体験)に加えて、インシデントの対応策やレポートの書き方を紹介します。
インシデント・ヒヤリハット・アクシデントとは!用語の違いを解説
インシデントにヒヤリハット、アクシデントは日頃から使う言葉ですよね。大切な用語なので、ここでそれぞれの用語の意味を再確認しておきましょう。
インシデントは間違った医療行為が、患者に実施される前に気づいたものや間違った医療行為を行ったが、患者の心身に影響を及ぼさなかったミスのことです。医療事故に至らなくても、一歩間違えば重大な事故につながる可能性があったミスをインシデントといいます。
インシデントはヒヤリハットとも呼ばれています。
アクシデントは医療行為などを行う中で、患者の心身に危険を及ぼすことです。医療事故(医療ミス)とも呼ばれています。
看護師が実際に起こしたインシデント事例!みんなのヒヤリハット体験
看護師の仕事は人の命に関わるものでミスは許されません。
それでもインシデントは起こってしまうものです。
みんなのヒヤリハット体験を教訓にして同じミスを起こさないように、仕事の手順や確認方法などを見直してみましょう。それでは与薬ミスと転倒、それぞれ実際に起きた事例を紹介します。
与薬ミスのインシデント事例
点滴注射準備中にインシュリンを入れ忘れた。インシュリンは冷蔵庫にあり、伝票を確認せず現品のみで確認をしていた。途中ナースコールが鳴ったので点滴注射準備作業を中断した。定期血糖測定時に患者が高血糖になっていたので気づいた。
発生要因は基本的ミス(伝票と現品とで照合しなかった)とナースコールで作業が中断されたことです。看護師が薬剤のミキシングをせざるを得ないことも要因であると考えられます。
転倒のインシデント事例
食事介護が必要な患者さんのベッドの角度を90度に上げ、ベッド上に座位の姿勢で保持していた。配膳しようと思い、その場を離れて15分ほど経過した時点で行ってみると、ベッドから上半身が落ちて、身体が床についていた。患者に外傷はなかった。
発生要因は片麻痺側にずれを防止するための枕などが入っていなかったこと、ベッド柵が上半身の落下を防止できる位置になかったことです。
インシデントが多い与薬ミスと患者の転倒!対応策を紹介
事例を見てみると、どちらも自分の身に起きそうで少し怖くなりますよね。ですが、対応策をしっかりとっていれば、インシデントが起こる可能性を減らすことができます。ここではインシデント事例で最も多い、与薬ミスと転倒の具体的な対応策を紹介します。
与薬ミスが起きる3つのパターンと対応策
与薬ミスで多いのは与薬する患者の間違い(患者誤認)、薬量や薬の種類の間違い、三方活栓などの医療機器操作ミスです。それぞれの対処法はこちらです。
患者誤認
- 与薬前は患者の確認を徹底して行う
- 同姓や同名の患者がいる場合はチェックをより丁寧に行う
薬の種類・量間違い
- 各病棟で間違えやすい薬のリストを作って共有
- 間違えやすい薬のリストを目につく場所に掲示
医療機器の操作ミスについては、自治医科大学の医療安全対策部で、次のような対策を推奨しています。
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推奨されている対策
- 策定したマニュアルに基づいた教育を受けた人のみが医療機器を使用
- 操作時のチェックリストを作成し確認を行いながら、医療機器を使用
人が機器を扱うときはヒューマンエラーが起きやすいので、操作には確認の徹底が必要です。
与薬ミスの対応策に続いて、転倒に関する対応策を紹介します。
転倒・転落事故は訪室とアセスメントシートの活用で防止
転倒や転落を完全に防ぐのは、なかなか難しいです。転倒・転落の対策としては訪室の回数を増やすこと、アセスメントシートの活用が有効です。
アセスメントシートは転倒や転落などのインシデントを防ぐための対策にも有効だとわかり、注目されています。
年齢や性別、身体的障害、認知的障害などの部類ごとにスコアを出して、それぞれの患者がどのような状況の時に転倒しやすいのか把握することによって転倒を予防します。
インシデントレポートのポイントは原因分析と対応策!
インシデントレポートの目的は、実際に起こった事例を分析・検証して再発を防ぐことです。
医療ミスの裏には、インシデントやヒヤリハットなどが隠れていますが、このような小さなミスの積み重ねが大きな事故に繋がることを表す経験則が「ハインリッヒの法則」※です。
この法則は災害防止の指針として、医療機関からIT業界、航空業界、NASAなど、いろいろな業界で活用されています。
1件の重大な事故の前には、29件の軽微なトラブルがあり、その背後には300件のヒヤリハット(インシデント)が起こっている。さらにヒヤリハットの前にはミスには至らないけれど、危ない行為が存在するという法則。
インシデントレポートをしっかり書いて共有することで、潜在的な危険因子を明らかにして、インシデント対策に加えて重大な医療事故を防ぐことができます。
インシデントレポートを書くときは、原因の分析と対応策の2点を考えることが大切です。
インシデントレポートを見てみると、対応策のみで原因分析を行えていない場合が多いんですよ。3つのステップにしたがって、原因の分析と対応策の2点をしっかり押さえることで、内容の充実したレポートを書くことができます。
発生前
1、原因分析をするためにインシデント発生前と発生後にわけて整理する
- インシデント発生前に兆候がなかったか
- 以前起きたインシデント事例を再確認
- アセスメントシートにインシデントリスクが記録されていたか
- 医療機関と家族の連携をとっていたか
発生後
2、事後対応は適切だったか、マニュアルに則り対応できていたか
3、今後類似するインシデントを防止するために、次のポイントを意識して対応策をまとめる
- 組織全体で行う対応策を考える
- 実行可能な対応策と、それをどうやって業務に組み入れるかを考える
- 少なくても、原因1つに対して対応策1つを考える
インシデントを防ぐには「TeamStepps」を活用しよう!
インシデントは声出しや指さし確認、コミュニケーションエラー※対策で防げるような事例が多いんですよ。指さし確認は毎回行っていても、慣れてくると動作だけになって、確認したつもりになることもあります。
動作だけになるのを防ぐためには声出し確認が有効ですよ。動作に加えて発声を同時に行うので確認を意識的に行えます。
また不十分な伝達によるインシデントを防ぐためには、コミュニケーションエラーを防ぐことが重要です。チーム全体での対策もしっかり行いましょう。
コミュニケーションが取れていないために起こるトラブルやエラーのこと。職員間の情報共有が不十分、誤伝達などが挙げられます。
コミュニケーションエラーを防ぐためには、アメリカの国防省とAHRQ(医療品質研究調査機構)が医療安全を推進するために共同で作成した「TeamStepps(チームステップス)」を活用するのがおすすめです。
TeamSteppsのスキル
SBAR | 患者の容体が変化したなどの緊急時は「状況、背景、評価、提案」の4つを最低限情報共有する |
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コールアウト | 緊急時などの重要な場面では、全員が意思伝達できるように大きな声で情報を伝えあう |
2チャレンジルール | 一度発言したことが無視されても、しっかりともう一度情報を伝える |
DESC | 1、具体的な情報を伝える 2、自身の考察も伝える 3、代替案の提案する 4、対応策を決める |
*SBAR(Situation-Background-Assessment-Recommendation)
インシデントは隠さずに報告しよう!事例は今後の医療の財産になる
今回は大事に至らなかったとしても、次には同じミスで患者の命に関わるような医療事故が起こる可能性もあります。
技術や不注意に関するミスならば本人の意思で改善できますが、環境によるインシデント事例の場合、自分以外の看護師も同じミスを起こす可能性があります。そのような危険因子を明らかにすることもレポートの大切な目的です。
新人、または業務に慣れてきた時期が最もインシデントを起こしやすくなります。インシデントを起こしたときは一つひとつの事例に向き合って、今後の医療技術発展の糧にしましょう。