看護師さんの辛い勤務環境

看護師の不足と辛い労働環境!高まる需要への対策は?

看護師の不足と辛い労働環境!高まる需要への対策は?

今、看護師の不足が深刻な問題になっています。看護師には女性の職員が多いため、結婚や出産などのライフイベントによる離職が多いんです。仕事の辛さから辞めてしまう人も多く、看護師の離職が人員不足の原因になっています。

人員が不足すると看護師一人一人の負担は重くなるので、過重労働による医療ミスが起きたり、労働環境の悪さが理由でさらに退職する看護師が増えたりと悪循環を招いてしまいます。

最近問題になっている「病院のたらい回し」も、看護師不足が原因のひとつ。人員不足で緊急な対応をできるだけの人数が確保できていないため、患者の受け入れを拒否する病院もあるんですよ。

この問題の対策として、国では潜在看護師の再就職をサポートすることで人員増加を促しています。

また平成27年には法改正によって潜在看護師はナースセンターへ届け出ることが義務付けられ、ナースセンターから潜在看護師へ再就職に関する直接的なアプローチが可能になりました。

今回の記事は看護師が不足している現状とその原因、国で行われている対策についてです。そして今後特に需要が高まると言われている訪問看護師についてもご紹介します。

看護師の人員不足の実態は?懸念される患者への影響

厚生労働省の「看護職員の現状と推移」によると、平成25年度の看護職員の求人数と求職者数は次のようになっており、看護師の人員不足が深刻化しています。

ナースセンター ハローワーク
求人数(人) 183,588 1,203,392
求職者数(人) 66,311 446,658

看護師の不足は、医療現場や患者にさまざまな影響を与えます。

    <看護師不足による影響>

  • 看護師一人一人の負担が重くなり、離職率がさらに高くなる。
  • 看護の質が低下し、医療事故のリスクも高まる。
  • 病院にいる看護師の人数では緊急な対応ができず、「病院のたらい回し」が起こる。
  • 地方の病院が閉鎖され、地域住民の不安が大きくなる。

それでは、それぞれの影響について詳しく説明していきます。

看護師一人一人の負担が重くなり、離職率がさらに高くなる

看護師が不足している病院では、看護師の仕事量や勤務時間が長くなり、看護師への体力的・精神的負担が重くなっています。

絶対的な人手不足による深刻な健康実態

「疲れが翌日に残ることが多い」51.7%と、「休日でも回復せず、いつも疲れている」21.9%を合わせた「慢性疲労」は、73.6%にもなっている。

また、自らの健康については、「健康に不安」が最も多く49.2%、「大変不安」が8.2%、「病気がちで健康とはいえない」が2.6%で、合わせて60.0%にのぼる。

さらに、仕事での「強い不満、悩み、ストレス」が「ある」67.2%と約7割にもなる。

引用元:日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」

こうして労働環境が悪くなると、さらに離職者が増え、またさらに労働環境が悪くなる、という悪循環に陥ります。

実際、看護職員の「仕事を辞めたい理由」は、「人手不足で仕事がきつい」が44.2%と最も多くなっているんです。

患者一人一人に対する看護の質が低下し、医療事故のリスクも高まる

入院中の患者や外来の患者の人数に対して看護師の人数の割合が低いほど、患者一人一人へ手厚い看護ができなくなってしまいます。

また、あまりにも人が足りず、経験の浅い看護師も荷が重すぎる仕事を任される可能性があります。そのため重大な医療ミスが起こってしまう危険性も。

看護師は人の命や健康に直接関わる仕事。何か起きた場合「人手が足りなかったから」じゃ済まされませんよね。

看護師の不足は患者の命や健康に大きく影響しているんです。

病院にいる看護師の人数では緊急な対応ができず、「病院のたらいまわし」が起こる

最近問題になっている「病院のたらいまわし」には、次のような2つの状況が含まれます。

1、患者を搬送する救急車が病院に到着したが、何らかの理由によりその病院では診療できず、別の救急病院を探さなければならなくなる。

2、救急隊員が病院側に患者の受入を依頼したが、受入が決まるまでに多数の病院に連絡をとることになり、結果的に時間がかかってしまう。

患者が病院をたらい回しにされる原因はさまざまですが、看護師の不足もその原因の一つと言われています。

緊急な対応に回せる看護師がいないほど人員不足だと、病院側は患者の受け入れができません。

最悪の場合は、受け入れてくれる病院が見つからず患者が死亡してしまうこともあります。ケガや病気はいつ起こるかわからないもの。緊急の事態に応じることができないほどの人員不足は、深刻な問題です。

地方の病院が閉鎖され、地域住民の不安が大きくなる

地方病院では特に看護師が不足していて、経営が苦しくなり閉鎖を余儀なくされる病院もあります。

そのため地域の住民は近くに通える病院がなくなります。定期的に病院に通わなければならない人は時間も削られますし、交通費もかかります。年配の人の場合は、病院に通うのが大きな負担になってしまいます。

緊急事態の場合も、自宅から距離のある病院に行かなくてはならないので、地域住民の不安も大きくなります。

看護師の不足は、病院の閉鎖も引き起こしてしまうんです。

ただ看護師の人数が増えればいいのではなく、地域などで人数に偏りが出ないことも大切です。どの患者もまんべんなく、安心して治療を受けられる人数体制が求められています。

看護師の不足している原因は離職の多さと「7対1入院基本料」

ではなぜ看護師は深刻な人員不足になっているのでしょうか?その理由は離職人数の多さです。

「看護職員の労働実態調査報告書」(日本医療労働組合連合会)によると、年間12万5千人の看護職員が離職しています。

さらに、仕事を辞めたいと「いつも思う」人は19.6%、「ときどき思う」人は55.6%と、合わせて75.2%の人が離職を考えながら働いているんです。

上でも書いたとおり看護師の離職が多い病院は、人手不足により労働環境が悪くなります。
そのため新しい人材を確保しづらく、人員不足の解消が難しくなってしまいます。

そして国で行われた「7対1入院基本料」の導入も、看護師が不足した原因の一つと言われています。

平成18年度の診療報酬改定における入院患者7人に1人以上を配置することにより加算される「7対1入院基本料」が導入されたことにより、多くの病院がそれまでの「10対1入院基本料」から診療報酬の高い「7対1入院基本料」の確保を目指した結果、人材の流動化を招き、看護職員不足が深まる一因となったと言われている。

引用元:総務省行政評価局「医師等の確保対策に関する行政評価・監視結果報告書」

この制度のメリットはおもに次の2点です。

    <「7対1入院基本料」のメリット>

  • 看護師が多く配置され看護の質が高まる
  • 看護師の離職原因となる過重労働を緩和できる

またより多くの看護師が必要になったため、病院は看護師争奪戦に勝つために勤務条件や待遇を良くしていきました。

では、看護師の離職を防止できるはずのこの制度が、なぜ看護師不足を深刻化してしまったのでしょうか?

確かに元々は看護師不足の解消も目的の一つとされていた「7対1入院基本料」ですが、結果的に看護師を多く雇用できるようになったのは、設備や待遇が整っている大病院だけ。

それに対し経営基盤の弱い中小病院では、勤務条件などの改善が難しく看護師争奪戦に負けてしまい、人員不足がより深刻になってしまったんです。

国による「7対1入院基本料」の導入により看護師の不足が深刻になってしまいましたが、この他にも人員不足への対策は行われているんですよ。その対策については次の項目でご紹介します。

看護師の再就職で人員不足解消!国で行っている対策

看護師の不足に対して、公的に以下のような対策が行われています。

  • 再就職支援プログラムで復職への不安を解消
  • 法改正でナースセンターと潜在看護師のつながりを強くする

ではこの2つの対策について、詳しく説明します。

再就職支援プログラムで復職への不安を解消

看護師免許を持っているけれど、離職している状態の人のことを「潜在看護師」といいます。この潜在看護師の再就職を公的にサポートすることによって、看護師不足の解消を目指しているんです。

そのサポートとして行われているのが、再就職支援プログラム。

再就職支援プログラムとは、都道府県のナースセンターや看護協会で行われている、潜在看護師を対象とした講習会のことです。再就職支援セミナー、復職支援研修などとも言われています。

講習会では、潜在看護師が休職中に忘れてしまった医療や看護の知識と、休職中に導入された最新医療について学ぶことができます。

特にブランクのある看護師は再就職前に勉強をしておかないと、久しぶりの業務についていけないのではと不安になってしまう場合が多いのですが、このような講習を受ければ安心して再就職することができます。

ブランクのある潜在看護師は「ブランクで悩む看護師の不安を解消する方法!看護師求人サイトも活用」も読んでみてください。

法改正でナースセンターと潜在看護師のつながりを強くする

ナースセンターでの看護師不足への対策も幅広く行われるようになっています。

平成27年10月1日より「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が改正され、保健師・助産師・看護師・准看護師の免許を持っていてその仕事をしていない人はナースセンターに届け出ることが義務付けられました。

これにより各都道府県のナースセンターが、届出情報に基づいて看護師本人の意向やライフスタイル等を踏まえた上で看護師の復職を支援することが可能になったんです。

支援の内容は、求人や復職に向けての情報提供、復職研修の案内、復職意向の定期的な確認など。

ナースセンターと潜在看護師のつながりを確保することで、潜在看護師が再就職を目指す「求職者」になる前の段階から、ナースセンターは潜在看護師に対して復職を促す直接的なアプローチができます。

病院でも看護師不足の対策は行われています。夜勤の回数を減らしたり、配置換えを定期的に行ったりして、看護師の体力的・精神的な負担を軽減することで離職者の増加を防いでいます。

看護師は需要の大きい仕事!離職の前に転職も考えてみて

ここまで看護師の人員不足が及ぼす影響や、その原因・行われている対策について説明してきました。

この記事を読んでいる人のなかには、看護師の仕事を辞めようか迷っている人もいるかもしれません。看護師など医療従事者の仕事は人の命に関わるものですから、責任も重大。体力的にも精神的にも大変と感じる場面は多いですよね。

でも「辞めたい」と思う理由が、人間関係や過重労働など病院側にあるものなら、離職ではなく転職を考えてみるのもおすすめです。

病院側も看護師の不足に対して、労働環境を改善するなどして看護師の離職対策をしています。

看護師転職サイトに登録すると専属のコンサルタントが付き、「夜勤の少ないところがいい」「託児所(院内保育所)のある病院がいい」など、希望に合った病院を無料で探してくれますよ。

病院の選び方については「看護師必見!転職時に病院選びで失敗しない情報収集のポイント」で詳しく解説しています。

不足しているのは、病棟勤務の看護師だけではありません。訪問看護師もまた、今後人員不足が深刻になり、需要が高まると言われているんですよ。次の項目で説明します。

2025年問題を解消できるか!?需要が高まる訪問看護師

訪問看護師とは、病気や障害を持った人がその人らしい療養生活を送れるよう、自宅に訪問しケアを行う看護師のことです。

実は看護師のなかでも、この訪問看護師の人員不足が特に心配されています。これには今後起こる「2025年問題」が深く関わってきます。

国でも早急な対策が必要とされる「2025年問題」をご存知ですか?

団塊の世代(ベビーブーム世代)が2025年には75歳以上の後期高齢者になり、日本人の全人口の18%を超えると推測されています。

ちなみに65歳以上の高齢者の割合は30%以上になると言われているんです!

これによって医療・福祉・介護サービスの需要は高まり、社会保障財政のバランスが崩れる恐れがあります。これを「2025年問題」といいます。

また高齢化に伴い自宅療養を望む高齢者の増加も予想されているので、国では2020年までに9,000箇所以上の訪問看護ステーションを作ることが目標とされています。そのため、そこに所属して働く訪問看護師も需要が高くなるんです。

訪問看護師は基本的に1人での勤務ですがやりがいもあり、一人一人の患者にじっくり向き合えます。

夜勤はありませんが高収入な場合が多いので、再就職を考えている潜在看護師は、訪問看護師の道も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

詳しくは「訪問看護師に転職して需要が広がる在宅医療を支えよう」を読んでみてください。

1人で勤務を行う訪問看護師は、人間関係を気にしなくていいという面では気が楽ですが、緊急事態の対応など、特に仕事に慣れていないうちは不安を感じることも多い働き方です。

訪問看護師としての再就職を考えている人は、教育体制が整っている事業所を選ぶと業務への不安なく働けますよ。

人員不足解消のためにもう一度看護師の道へ!復職支援も利用

看護師の不足は、残った看護師の勤務時間や仕事量などの負担を大きくし、辛い労働環境を作ってしまいます。これによって離職者が増え、人員不足を深刻化させてしまうんです。

また人員不足によって、看護の質が悪くなってしまうことで医療事故に繋がる場合や、緊急の患者が病院をたらい回しになることもあるんです。患者が迅速に的確な治療を受けるためには、看護師など医療従事者の人員確保が必要です。

この問題を解決するために、各病院や国でも対策が行われています。人員不足を解消するカギとなるのが潜在看護師。

実務経験のある潜在看護師が業務への不安なく再就職するため、再就職支援プログラムが行われています。また法改正により、ナースセンターから潜在看護師へ再就職に関する直接的なアプローチを行えるようになっています。

現在は人員確保のため、勤務条件の改善が行われている病院もあります。

離職中の看護師は、この機会に復職を考えてみるのもいいでしょう。そして看護師を辞めたいと思っている人は、自分に合った病院への転職を検討してみてはいかがでしょうか。