患者さんの心のケアも大切!形成外科看護師の役割や待遇
現在の日本の病院には、ありとあらゆる種類の科があります。その中でも、ちょっと紛らわしいのが形成外科(けいせいげか)と整形外科(せいけいげか)ではないでしょうか。発音がとてもよく似ているため、混同してしまっている方も多いと思われます。
でもこの2つの科は、音こそ似ているものの、その内容はまったく異なります。後に詳しくご説明しますが、整形外科が主に骨や関節などの運動器を扱うのに対し、形成外科は皮膚などの身体の表面を本来あるべき形に戻すという意味合いの強い科です。
今回はそんな形成外科を取りあげ、そこで働く看護師のお仕事や待遇、求められる人材などについてご紹介していきます。
形成外科で診る病気ってどんなもの?患者さんはどんな人たち?
一般の方々はもちろん、もしかすると看護師でも経験のない方ならば「形成外科」と聞いても、何を診る科なのかピンと来ないということもあるのではないでしょうか。
そこで形成外科看護師のお仕事をご紹介する前に、どんな患者さんが来るところなのか、形成外科のベーシックな部分について見ていきましょう。
形成外科ってどんな科なの?
形成外科は、文字通り、身体の一部を「外科的に」「形成」するための科です。
日本に形成外科が登場してから既に半世紀以上を過ぎているにもかかわらず、一般の皆様の中には、「形成外科って何?」と問われる方もいらっしゃいます。
形成外科とは、身体に生じた組織の異常や変形、欠損、あるいは整容的な不満足に対して、あらゆる手法や特殊な技術を駆使し、機能のみならず形態的にもより正常に、より美しくすることによって、みなさまの生活の質 “Quality of Life” の向上に貢献する、外科系の専門領域です。
引用元:一般社団法人 日本形成外科学会
つまり、病気やケガなどによってできた体表の欠損や損傷を正常に近づけるところであり、耳鼻科や眼科のような身体の部位別ではなく、全身が守備範囲となる科なんです。
このように、どこか一部の臓器や部位だけではなく全身が対象となる科は、意外と珍しいものです。したがって、他科に比べて形成外科での勤務は、それだけ幅広い経験や知識が必要となります。
混同しやすい他科との違い
先にも少し触れましたが、形成外科とよく似た名前の診療科が、他にもいくつかあります。
- 整形外科
- 美容形成外科
- 美容整形
これらの科や言葉は、形成外科とよく間違われるものですが、実際に行う治療内容はかなり異なります。
整形外科は、骨や関節、骨格などに関する病気や怪我を扱う診療科です。骨や関節は外側からは見えない部位ですから、身体の表面の治療がメインである形成外科とは、まったく異なります。
一方、美容形成外科は形成外科の仲間と言えます。形成外科では主に、病気やケガなどによる欠損や変形などの治療の必要があるものを取り扱いますが、美容形成外科では治療の必要はない部分への美容的観点からの形成が主となります。
もうひとつ紛らわしいのが、「美容整形」という言葉。これは、美容形成外科で行われる施術内容を指す言葉であり、診療科名ではありません。美容整形が行われるのは「○○美容形成外科」であり、原則として「○○美容整形外科」という病院名はないはずです。
形成外科で治療する疾患やケガ
形成外科での治療対象となる疾患やケガは、以下の通りです。
- 合指症や多指症、口唇口蓋裂などの先天異常
- 外傷による指切断や顔面骨折など
- やけどやケガの傷痕
- 乳がん手術後の乳房欠損
- 血管腫、イボ、痣
- ホクロや刺青の除去などの美容形成
ご覧の通り、頭のてっぺんからつま先まで全身が治療の対象部位となります。先天異常や後天的な病気、さらにはケガによる外傷まで受診のきっかけも非常に様々であるため、人体というもの全体への知識や理解が必要となります。
また、近年増加している美容形成外科での方では、
- 二重瞼への手術
- 豊胸手術
- 脂肪吸引
- ヒアルロン酸注入など若返りのための施術
- 刺青やほくろなどの除去< /li>
このような美容的観点からの手術を行います。
患者さんの年齢層
形成外科を訪れる患者さんは、赤ちゃんから高齢者まで、大変幅広い年齢層となっています。
多指症や口唇口蓋裂といった先天異常のケースでは、赤ちゃんや乳幼児が大半ですし、乳がん手術後の乳房再建の患者さんは、当然ながら皆さん女性です。
そして、その他のケガや病気、美容目的のお悩みは年齢性別を問わずに起こるものですから、すべてのライフステージにいる患者さんが来院されます。
というわけで形成外科は、老若男女すべての全身が対象になるという意味において、ちょっと珍しい科と言えますね。
形成外科の看護師はどんなことをするの?どんな勤務先があるの?
身体の表面に起こった異常や損失を元通りにする形成外科ですが、どんな勤務先があるのでしょうか。また、形成外科での看護師としてのお仕事内容とは、いったいどんなものなのでしょうか?
形成外科の勤務先とは
形成外科は、大学病院・総合病院が中心となっていますが、もちろん開業医院(クリニック)も多数存在します。ただ、クリニックは単科の美容形成外科や、一般の形成外科に美容形成外科、もしくは、対象となるお悩みが共通するところが多い皮膚科を併設しているところが多いです。
形成外科の治療には、外科手術を伴うものが多いため、入院病棟があるところが大半です。そのため、看護師にも夜勤のお仕事があります。
ただ、美容形成外科や小規模の形成外科などでは、日帰り手術を中心に行っているところもあります。
その場合、病棟や入院設備を持たないクリニックもありますので、そのようなところなら夜勤がない場合もあります。
形成外科看護師のお仕事とは
形成外科で働く看護師には、どんなお仕事があるのでしょうか。主な仕事内容は、
- 投薬
- 注射・点滴
- 採血などの一般的な検査
- 医師の治療の補助
- 各種オペ室業務
- カウンセリング業務
このようなものとなっており、基本的には他の科と大きくは変わりません。しかし、特に美容形成外科の場合は、患者さんの外見上のお悩みや要望をしっかりと聞き取るカウンセリング業務も大切な役割となってきます。
また、外科領域の科ですから、必ずオペ室業務があることが形成外科ナースの仕事の特徴と言えます。
オペ室業務とは
具体的なオペ室業務とは、以下のようなものです。
- 手術前後の準備・後片付け
- 術前術後の患者さんへの声掛けやフォロー
- 患者の体位交換や手術器具の手渡し等、術中の補助
- 記録
たとえ小さなクリニックでも、ほとんどのところで日帰り手術は実施しているため、形成外科のナースならば、これらのオペ室業務は必須と考えた方がよいでしょう。
オペ室を経験したことがない看護師も意外とたくさんいますから、形成外科でオペ室業務の経験を積むことができれば、次回の転職にも有利になります。
ご本人や家族の心理的ケアも重要
形成外科を訪れる患者さんは、思ってもみなかった我が子の先天異常やご自身の病気、突然の事故による外傷などで精神的に動揺している方が多いものです。
たとえば、500人に1人の割合で発生する口唇口蓋裂に関しても、形成手術できれいに治るのですが、やはりご両親のショックは大きいケースが多いです。
近頃では、胎児診断される方も多くなっており、ご両親への早い情報提供が急務となっています。治療システムも日々進歩しており、例えば、新生児期での哺乳、生後1ヶ月前後の術前顎矯正、口唇形成術と一緒に行う歯肉骨膜形成術、就学前の早期顎裂部骨移植術などが挙げられます。
引用元:神奈川県立こども医療センター
ご両親の心理的な動揺に寄り添い、少しでもその負担を取り除き、適切な時期にふさわしい治療が受けられるよう、出産前を含む早期から受診をするケースが増えています。
また、不慮の事故や病気もしくは美容的なコンプレックスなどで、心に傷を負った患者さんやご家族が多いことも形成外科の特徴と言えます。このような方々へのカウンセリングも、とても大切なナースのお仕事です。
形成外科看護師のお給料は?どうすればお給料アップできる?
身体の一部ではなく全身、しかも赤ちゃんから高齢者まで幅広く対応している形成外科。興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。では、仮に形成外科で働いたら、待遇やキャリアアップはどうなるのでしょうか?
また、形成外科で看護師として働くには、どのように職場探しをしたらよいのでしょうか?
形成外科看護師の給与
形成外科は、基本的に夜勤があり、病院によっては残業もあるというところも少なくはないため、他科に比べると平均またはそれ以上のお給料が期待できるでしょう。
また、勤務地によっても多少異なります。一般的な形成外科の場合は、都市部の大病院の方が、給与が多い傾向があります。
形成外科に欠かせないお仕事としてオペ室業務があるので、オペ室経験がある方はその経験をお給料に反映してもらえる病院もあるでしょう。
また、美容形成外科は一般的な形成外科よりもお給料が良いと言われています。なぜなら、美容形成外科は保険適用されない患者さんも多数いらっしゃるからです。
さらなるキャリアアップのために
形成外科の看護師としてスキルを高め、キャリアアップしたいという方には、「皮膚・排泄ケア認定看護師」という認定資格の取得がオススメです。
ストーマや瘻孔周囲の皮膚に対して行われてきた皮膚の保護や皮膚障害への対処によって開発された知識や技術が、排泄物による皮膚障害だけにとどまらず、褥瘡や慢性潰瘍への対処や予防に活用できたことから発展してきました。スキンケアは、皮膚・排泄ケアの領域全てに共通し基礎となる部分であり、健康を害した皮膚ならびに皮膚障害のリスクの高い脆弱な皮膚に対し、健康を取り戻すことを目的としています。
引用元:公益社団法人 日本看護協会
このように、形成外科のみに特化した専門資格ではないのですが、体表(皮膚)を健康な状態に戻すためのケアを専門とした、形成外科の診療目的とも共通する部分の多い分野の資格なのです。
この「皮膚・排泄ケア認定看護師」は、
- 5年以上(うち3年以上は外科系)の実務経験を有すること
- 教育機関で6か月以上の専門教育を受けること
- 資格試験に合格すること
これらの条件を満たさなければ取得できないため狭き門ではありますが、持っていれば確実にお給料アップにつながります。
この資格を持つ人のみを対象とした形成外科看護師の求人もありますので、勤務先の選択肢も広がります。
形成外科看護師として働く場所を見つけるには
形成外科の看護師になるには、
- ハローワーク
- 一般的な求人雑誌や求人サイト
- 看護師専用の求人サイト
- 病院のホームページ
これらの媒体で求人情報を見つけることができます。特に美容形成外科は、病院のホームページの中に看護師募集ページがあるところも少なくありません。サイトをご覧になって施術内容や医師の信念に共感できるところがあったら、そこから応募してみるのも良いでしょう。
オペ室業務の経験がある方は、それをアピールするのも、より良い条件で転職できるチャンスとなります。そのような売りがない方でも、形成外科で経験を積むことが次の転職できっと有利になりますよ。
外科の中でもやや特殊な形成外科は患者さんの心理的ケアも重要!
形成外科に来る患者さんの場合、内蔵の病気と違って、異常や欠損がある部位が目で見えるわけですから、心理的なダメージも大きいものです。医療の知識や技術だけではなく、患者さんやご家族の気持ちを大切にして、心に寄り添ったケアをすることも重要です。
そして、理想通りによみがえった患部に喜ぶ患者さんの笑顔を見られるのも、形成外科看護師ならではのやりがいとも言えます。興味が湧いた方はぜひ、形成外科の求人を探してみて下さいね。
一方、整形外科は骨や関節など、身体の内側にある一部分を扱う科です。よく似た名前でややこしいですが、中身はまったく違いますね。